演劇の力を信じて 科学技術の対話の場に

2022年1月14日

北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター
科学技術コミュニケーション教育研究部門
特任准教授 種村 剛さん

都内の大学や高専の授業をかけもつ専任非常勤講師時代に、「息を吐き続けるには吸うターンが必要」とeラーニングで北大CoSTEPを受講。修了後はCoSTEP講師の職を得て、教える側に転身した。演出家・平田オリザに共鳴し、科学技術コミュニケーションと演劇の親和性に着目。受講生や地元劇団の役者たちと裁判劇を制作する。

 

眠くならない科学技術倫理の授業を実践

これは講師をしていた実体験からお話するんですが、高専生にとって倫理社会の授業って寝る時間なんです(笑)。それが悔しくて、なんとか面白い授業をしてやろうと思いついたのが倫理と科学技術を組み合わせること。ヒト受精卵のゲノム編集やAIに仕事を任せる是非論について彼らに考えてもらう授業をするようになってから、科学技術コミュニケーションについてもっと本格的に勉強したくなり、北大CoSTEPのeラーニングを受講しました。教わる立場になってみると、日頃学生たちに指導していることは自分も実践しないと格好がつかないですよね。CoSTEPでは一度もサボらずに、課題も真っ先に提出するまじめな受講生だったと自負しています。

選科A受講時代、この時から演劇を取り入れたサイエンスコミュニケーションを試行
台本から作る討論劇、観客が陪審員に

北大に来る前は演劇は観る専門でしたが、CoSTEPの開講式にお招きした平田オリザさんの「演劇を使って対話の場を生み出す」というお話を聞いて、俄然、興味がわきました。古代ギリシャの広場から生まれた演劇は、その根底に自分たちの暮らしに大きく影響する事柄については皆で話し合って決めていく民主主義の精神が流れており、それは現在の科学技術と我々の関係性にも全く同じ構造が当てはまる。そう考えて、実習では科学技術を題材にした裁判を舞台にした討論劇を台本から作り、観客の方々を陪審員にして話し合っていただくイベントを企画しています。また近年は大学の外でも地元劇団と組み、商業演劇としてより精度が高い作品上演に挑戦しています。

討論劇の様子
あなたの「面白い!」を聞かせてほしい

劇中、“陪審員”による評決は必ず「問題が起きたら導入は即中止」とか「〜という条件付きで賛成」という条件が提示されます。実はこの条件を考える共有体験こそが、科学技術を社会実装するときの経験値として活きてくる。上演するたびに、一人ひとりの「わたしはこう思う」を引き出す演劇の力を再確認しています。ぼくに演劇があるように、科学技術コミュニケーションを学ぶ皆さんの中にもきっと、その人にしか思いつかないアイデアの種が眠っているはず。そこを開花させていく仕組みづくりが、教員であるぼくらの務め。「それ、面白そう!やってみようよ」というマインドが次の時代の扉を開いていく。CoSTEPをそういう場にしていきたいです。

理想のサイエンスコミュニケーターをお菓子にたとえると?
~おいしいサイエンスコミュニケーションのヒント~

その一口は幸せの味、伝統菓子の「シュトーレン」

いい科学技術コミュニケーターとは「自分の活動が人々のハッピーにつながる」という信念を持ついい人でもあると信じたい。そういう幸せな空気をまとっているお菓子といえば、シュトーレン。食べごたえもあるし、あのもっちりとした重さが安心感を誘います。