HILO株式会社
代表取締役 天野 麻穂さん
北海道大学大学院医学研究院細胞生理学教室の講師と慢性骨髄性白血病の治療を後押しする光診断薬のスタートアップ企業の代表を兼任する、北大初の事例を切り拓いた行動派。研究者から研究者を支援するURAの経験を積み、今は医学のシーズを社会に還元する立場になった。伝える力で「ひとりひとりの未来」を照らす灯台を目指す。
研究職20年目の決意でURAにジョブチェンジ
研究の専門分野は食品アレルギーの原因物質の構造解析や免疫反応です。学振時代に教えを請いたいUCLAの教授に「あなたの論文は全部読んでいます。ぜひそちらで研究させてください」とメールを出したら、翌日承諾の返事をいただきまして。3年間アメリカに滞在し、私の中では最もインパクトファクターが強い論文を書くことができました。帰国後、北大に来てからは企業の寄付講座にいましたが、その企業の倒産に伴い身の振り方を一から考えることに。研究者として20年間やってきて、残りの定年までも約20年と考えると、ちょうどその時が人生の分岐点。次は違うことをやりたいと、ちょうど求人が出ていた北大URAステーションに入りました。
共通言語を見出して異分野をつなぐ触媒に
URA時代の主な仕事は異分野連携プロジェクトの形成でした。たとえ研究者同士でも分野が変われば第三者による“通訳”は必要ですし、そこで研究成果を出した時にメディアに関心を持ってもらえそうなわかりやすいプレスリリースを出すことも、私たちの大事な仕事の一つ。科学技術コミュニケーションの重要性に目覚めたタイミングで、北大CoSTEPの受講を勧められました。異分野連携の魅力は、一足す一が二にも三にもなるところ。その化学反応を触媒するのが科学技術コミュニケーションの役割なのかなと感じています。かけ合わせる研究分野について徹底的に調べ、関係者が互いに関心を持てるような“共通言語”を見出すまでが難しくもあり、面白かったです。
効くとわかるから頑張れる、白血病治療に光を
URAとして医学部に出向し、そこで出合ったのが大場雄介教授が開発した光診断薬のシーズです。聞けば、慢性骨髄性白血病の治療にあたり、どの患者さんにどの薬が効くかが事前にわかる技術だという。そんなすごい技術を社会実装するにはまずスタートアップ企業の設立が必要で、代表者が決まらないため話が止まっていると聞いた瞬間、頭には「もったいない!」の一言が。思わず「私でよければ」と手を挙げていました。起業後、患者の会にも参加させていただいていますが、治療中の副作用に苦しむ方々の声は切実です。でもそこで薬が効いているとわかれば、頑張れる。この光診断薬がそんなおひとりおひとりの希望につながれば、という一心で普及に努めています。
理想のサイエンスコミュニケーターをお菓子にたとえると?
~おいしいサイエンスコミュニケーションのヒント~
黒子に徹するロングセラー「おにぎりせんべい」
主役は伝えたい科学技術のほうで、私たちはあくまでも黒子。そう考えるとでしゃばらない美味しさ、食べ続けても飽きない「おにぎりせんべい」。日持ちしますし、腹持ちも消化もいい。小さい頃から大好きで、今はどこででも買えるのがうれしいです。