料理研究家
土井 善晴さん
暮らしと食事、自然との関係を俯瞰的に捉え2016年に「一汁一菜」を提案する。長年の経験と深い洞察に支えられた料理研究家の言葉は、サイエンスコミュニケーションを学ぶ私たちに重要な示唆を与えてくれる。
日々の「あたりまえ」にある豊かな経験
料理をしないと人間は生きられない。人間が人間になって初めてしたことは料理、それは創造の始まりです。食べる相手のことを考え自然の素材を使って料理を作る、毎日の食事の経験はとりわけ豊か。しかし私たちはその豊かさを自覚せず逆に手放そうとしています。でも大切なことは、日々のあたりまえ、エッセンシャルなところにあると思うんです。
たとえば日本人は料理の形にこだわって、おむすびでも三角にピシッと揃えるのがよいと考えがちです。でもケとハレの区別を考えれば、日常の家庭料理で形はそんなに重要ではない。「自分は何をしようとしているのか」「今なぜそれをするのか」を深く考えた上で、意味をわかって料理せなあかんと思います。自分で考え判断する経験は、自立することに繋がっているんです。
「考えて工夫する」習慣を身につける
シンプルな家庭料理の中で、自分でやり方を発見していくとよいですね。こっちは塩だから、別のものは醤油で味付けしてコントラストをつけてみようとか、考えて工夫する。考えることが身についたら、意識しなくてもそれが当たり前にできるようになってくるんです。
知りたいと思うことは、自分から行動していけば知れるようになると思いますよ。今でも年上の農家さんや魚屋さんに季節の食材を教えてもらおうと思っています。そのときは、一緒に行動します。山菜採りに付き添って、山を歩く姿とか水の飲み方とか、一つひとつの動作をみているだけで、あーって思う発見がありますよね。
考えを「共有する」仲間
大事なことは、ものの考え方を共有できる仲間をつくることだね。私がこうやって自分の考えを話せるのは、話を聞いてくれる人がいるからです。私も哲学者や研究者に手紙を書いて、自分の考えたことが正しいか、会って話を聞きにいくことをずっとしてました。
今私は、話をしながら種まきをしているつもりなんです。自分で「あ、わかった」と思うことがあったら蒔いた種から芽が出たということ。自分で気がつかないとほんまの意味でわかったことにならない。だから行動してください、手を動かして。そうすれば違いに気がつくようになるから。