NPO法人 市民と科学技術の仲介者たち
代表理事 大浦 宏照さん
専門分野は「防災」の人。小樽の建設コンサルタント会社で地質調査に従事するかたわら、主宰するNPO法人「市民と科学技術の仲介者たち」で防災教育の普及に努める。現在は「核のゴミ」について地元住民が対話する場づくりに奔走中。伝えたいこと以上に「相手が聞きたいこと」を思いやり、「仲介者」たる活動をライフワークに据えている。
同じ地質調査でも世の中のためになることを
室蘭工業大学で地滑りや斜面崩壊に関する地質の研究をして、修士修了後に都内の企業に就職しました。バブル時代のウォーターフロント開発や山奥でダムを作るためのボーリング調査に明け暮れましたが、あるとき、「自分がダムを作ったら毎朝遊びに来るこの猿の親子はどこに行くんだろう」と、ふと手が止まって。このまま今の仕事を続けていいのかなと思い始めたときに知人に誘われて、もう一度母校の研究室に戻り博士課程に入りました。その後、小樽の建設コンサルタント会社に入り、そこで1996年に起きた豊浜トンネル岩盤崩落事故後の現場調査を担当した経験は大きかったです。同じ地質調査でも世の中のためになることをしたいと実感した原体験になりました。
独学の壁に悩み、震災時の“溝”に「なぜ?」
ぼくらの仕事は基本、役所相手。地元住民とは直接話すことなく仕事が進みます。危ないですよね。「誰のためにやっているか」が見えなくなる。このままではマズイと思い、会員でもある日本技術士会の市民防災教育活動に参加するようになりました。ところがそれも数年続けると、壁にぶちあたります。市民の方々に伝えたい思いはあるけれども、肝心の自分は独学のまま、伝えるスキルが伸び悩みしている。また、同じ頃に東日本大震災が起き、ぼくらのようなエンジニアと市民の方々の間にある感覚のズレにも心がざわついた。「想定外」という言葉がなぜあれほど問題視されたのか、この“溝”は一体何なんだと思っていたところに北大CoSTEPの関係者と知り合い、受講を決意しました。
「核のごみ」対話の場で参加者の思いを傾聴
今、NPO法人の主な活動は北海道における高レベル放射性廃棄物の最終処分、「核のゴミ」について地元住民と対話を仲介するファシリテーションを続けています。難しいテーマですが改めて実感するのは、サイエンスコミュニケーターは科学の正しさを伝えることばかりにとらわれてはいけないということ。それよりも、そこに集まってくれた皆さんが何を聞きたがっているのか、何が不安なのか、その奥底に横たわる気持ちを丁寧に傾聴する姿勢を大切にしたい。その意味でも、今後は文系の担い手が増えてくれたらいいなと感じています。会社には定年がありますが、この活動はライフワーク。「誰のために、なんのために」を確かめながら、今後も携わっていくつもりです。
理想のサイエンスコミュニケーターをお菓子にたとえると?
~おいしいサイエンスコミュニケーションのヒント~
最後まで重層的な美味しさが楽しめる「極上パフェ」
上手な人が作ったパフェは総合芸術。初めの一口から最後の一口まで重層的に美味しさが続いて、食べ終わったら至福の満足感をお土産にできる。自分がファシリテーションする場もそうありたい。関係者全員に「対話できてよかったね」と思ってもらいたいです。