株式会社聴き綴り本舗 代表取締役
聴き綴り士 西尾 直樹さん
『札幌人図鑑』や『地域公共人図鑑』といった一連の動画インタビューコンテンツは、この人の『研究者図鑑』から始まった。専門知を持つ人物のライフストーリーに焦点を当てることで「届かなかった人たちにも届けられる」可能性を見出した。現在の活動拠点は札幌。「聴き綴り士」を名乗り、科学技術と社会の現場の垣根を下げていく。
文系の自分ができる動画企画「研究者図鑑」
中学時代は「宇宙の真理を知りたい」と思っていたんですが、理系科目にとん挫し大学で文転したことで、人間というこれもまた大きな謎に興味がわいてきて、大学では研究者支援や産学連携について研究していました。当時から問題意識を持っていたテーマが〈科学技術と社会の分断〉とあらゆる情報が〈東京一局〉に集中していること。これらの課題解決に向けて文系の自分だからこそできる橋渡しがしたいという思いがあり、卒業後に採択されたNEDOフェローシップの出向先で思いついた企画が動画インタビューの『研究者図鑑』です。当初は研究内容の解説が中心でしたが、「パーソナルな話が面白かった」という声があり、過去・現在・未来の3つのキーワードでライフストーリーを聴く現在の〈型〉が出来上がりました。
傾聴し適切な表現に綴る「聴き綴り士」に
インタビューの勉強のためにタモリさん、黒柳徹子さん、小堺一機さんの番組は見まくりました。その中でずば抜けて傾聴力が高かったのが小堺一機さん。どんな話も柔軟に受け止めて切り返す。見事な手腕でした。自分の活動に「聴き綴り士」という名前をつけたのも、ただ欲しい情報を聞き出すためのインタビューではなく、相手が伝えたいことを根気よく聴きとる傾聴の姿勢を伝えたくて。その相手から出てきたものを文字や動画といった適切な表現手段に綴っていく。だから「聴き綴り士」なんです。友人の紹介で当時の北大CoSTEPの関係者と知り合い、科学技術コミュニケーションという言葉を聞いたときは、直感的に「自分がやっている活動のことだ」と思ったことを覚えています。
科学技術を大学から解き放ちたい
行政の中に入るなど、色々な立場からまちづくりにも関わり、京都での活動にある程度の達成感を感じていたときに、北大CoSTEPの教員の求人を見つけたことは大きな転機になりました。ライティング・編集やソーシャルデザインの実習を受け持ち、現在は自営に戻りCoSTEPネットワークでお仕事のご依頼をいただいています。自分がいつも感じているのは、科学技術コミュニケーションを大学の中に閉じ込めたままではもったいないということ。より複雑な感情やリアルな本音が入り混じる社会の現場にも「自分たちの力でもっと社会を良くしていきたい」と考えている人はたくさんいて、そういう人たちと専門知を持つ人たちをつなげたい。その融合から生まれる新しい社会を見てみたいです。
理想のサイエンスコミュニケーターをお菓子にたとえると?
~おいしいサイエンスコミュニケーションのヒント~
地域ごとの愛着と変わらぬ本質「太鼓まんじゅう」
私は関西育ちなので子どもの頃から「太鼓まんじゅう」と呼んでいたんですけど、北海道では「おやき」。関西では他に「回転焼き」とも言いますし、全国的には「今川焼」「大判焼き」と呼ばれる場合が多いようです。「聴き綴り士」のように呼び方が違っても本質の味は同じ。地域ごとに名前が変わる親しみやすさもいいですよね。