明治大学 文学哲学科 准教授
佐藤 岳詩さん
科学技術で「生活が便利になる」ってどういうこと? 科学技術を発展させることは良いといえるのはどうして? サイエンスコミュニケーションに携わっていると、こんな根本的な疑問に直面することはないだろうか。倫理学者の佐藤さんに、科学技術と倫理についてお話を伺った。
規範倫理学・応用倫理学・メタ倫理学
私は主に現代の倫理学、特に英米系といわれる倫理学を研究しています。倫理学では規範倫理学、応用倫理学、メタ倫理学の三本柱が想定されます。規範倫理学は、私たちがどんなことをして良いのか、あるいは、してはいけないのかなどについて、一般的・抽象的なレベルで考える立場です。
対して応用倫理学は、具体的な社会課題に倫理学の知見から考察を進め、実際にその解決を目指す立場です。メタ倫理学の「メタ」とは一歩引くの意味で、「良い」や「悪い」などの言葉の意味や「悪いことをしてはいけない」という規範倫理学などが前提としている事柄について、倫理の外側から倫理学自体について考察を行う立場です。
応用倫理学の範囲
応用倫理学にはいくつかの分野があります。応用倫理学の成り立ちにも関連している生命倫理学は、病院で迎える死、安楽死、脳死と臓器移植などの人びとの生死に関わる問題を主題にします。そこでは、人が死ぬとはどういうことなのか、そこからさらに、人が生きるとはどういうことなのか、あるいは生命とは何かが議論されています。
環境倫理学も応用倫理学の代表的な分野です。他にも、情報倫理学や宇宙倫理学、戦争倫理学などを挙げることができます。
私たちが科学技術とよりよく付き合うために
応用倫理学の中でも生命倫理学は科学技術と密接に関連しています。例えば、脳死と臓器移植については、臓器を移植する技術が確立したことで、脳死の判定基準を考える必要が出てきました。生命倫理学は、科学技術の発展によってこれまで当たり前のものとしていた「死」のあり方が変わってきたことに伴う社会課題に対処しているともいえるのです。
新しい科学技術を使う際の政策決定にも倫理学は関わることができると私は考えています。例えば人工知能(AI)については「技術を使って何をすべきなのか」「そのとき配慮すべきことはなにか」などの価値に関する議論や「そもそも人間とは何か」という倫理学がこれまで積み重ねてきた知見も求められるでしょう。