東京大学大学院 情報理工学系研究科 特任研究員
宮本 道人さん
『SFプロトタイピング SFからイノベーションを生み出す新戦略』(監修・編著)を2021年に出版。国内でのSFプロトタイピングブームの火付け役となる。そこに至るまでの道のりには、「どうすれば科学コミュニケーターとして食べていけるのか?」という課題に向き合い続けた日々があった。
サイエンスライターとして食べていく?
サイエンスライターとしての道をかなり早くから模索していた宮本さん。高校一年生の時には、サイエンスライターのキャリア形成について、竹内薫さんにインタビューしたほどだった。だが、その時、竹内さんのような方法をまねしてサイエンスライターとして食べていくことは難しそうだ、という思いを宮本さんは抱いたという。
もともとパイの少ないサイエンスライター業界で自分が食べていくにはどうすればいいのか? このような課題意識を抱えながら、エンタメと科学と社会が組み合わさって進歩していく様を描いた論考「実験室化する世界 映像利用研究が導く社会システムの近未来」で批評家としてデビュー。SFプロトタイピング的なワークショップを高校生・大学生・大学院生向けに実施するようになる。
ムーブメントは自ら生み出していく
本を出版するだけでサイエンスライターとして生きていくことは、今はもうヴィジョンとして現実的ではない――そう考える宮本さんは、本の出版だけではなく、それをきっかけにして、これが自分の代名詞だと言えるものをムーブメントとして自ら創り出していき、その第一人者として様々なメディアに出ていくところまで、自身をプロデュースしなければならないと考える。
三菱総研でのSFプロトタイピングのワークショップをきっかけに、『SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル』(編著)を出版し、企業相手の仕事やさまざまなイベントに呼ばれるようになっていく。本を出すことを契機に、科学コミュニケーターとしての仕事を自ら生み出していったのだ。
古びた未来を打ち壊す方法を創造する
宮本さんの構想は今も拡がりを見せている。2023年1月には、様々なSFプロトタイピング手法を紹介した『古びた未来をどう壊す? 世界を書き換える「ストーリー」のつくり方とつかい方』が刊行される。そもそも、SFの根底には、みんなで一緒に作品を創ろうというワークショップの志向があると宮本さんは言う。古びた未来を打ち壊し、過去の軛から解き放たれるための思考の方法論を宮本さんは生み出し続けていく。