わかりやすさで足止めしない その先に進めるための文章に

2025年1月24日

BUSINESS INSIDER JAPAN

記者・デスク 三ツ村 崇志さん

北大CoSTEP時代の成果物が認められ、新卒記者の採用は珍しい科学雑誌『Newton』編集部で7年間腕を磨いた。2019年10月からはオンライン経済メディア『BUSINESS INSIDER JAPAN』に移籍。新型コロナ関連の記事も早くから発信し、エビデンスに基づく基礎知識の記事は40万アクセスを突破した。サイエンスライターの最前線をひた走る。

三ツ村 崇志さん
三ツ村 崇志さん

 

震災報道に理系のライター不足を実感

北大理学部に進学し、新聞記者希望で就活情報を集めていたとき、理系のライターが不足しているという話は耳にしていました。それが確信に変わったのは2011年の東日本大震災のとき。数多の“専門家”たちによるあやふやな解説記事が飛び交い、報道の現場に科学を理解して伝えられる人材が足りないことを一市民として実感しました。やはり就職するなら、この世界に。そう心を決めて大学院進学と同時に北大CoSTEPを受講しました。CoSTEPの特徴は単なる文章講座ではなく、科学技術コミュニケーションという言葉ができた背景やそこに向き合う姿勢を本質から教えてくれるところ。考え抜かれて書かれた文章は“腹に落ちる”ということも学びました。

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当時CoSTEPで制作した北大の広報誌『リテラポプリ』。
科学誌で7年間、強みを探してWEBメディアへ

『Newton』に採用してもらえたのは、CoSTEPで作った研究者紹介の電子書籍や北大の広報誌に書いた記事でプレゼンしたのが効いたんだと思います。7年間在籍しました。この時期に気づいたことは、そもそも科学の領域は自分一人でカバーするには広すぎるということ。この先もライターとしてやっていくにはもう少し専門特化した分野を持ったほうがいい、とも思い始めて、より社会に近いWEBメディアを探して『BUSINESS INSIDER JAPAN』に転職しました。ところが2019年10月に入社した後にすぐ新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が始まり、それから約一年間はコロナシフトで記事を書き続けることになりました。

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2023年には第一回ジャパンモビリティショーにゲスト登壇。カーボンニュートラルの実現に向けた科学技術のトレンドを解説するなど、科学とビジネスの境目での取材が多い。
基礎知識を要約したコロナ記事が40万アクセス

ぼく自身がコロナ関連の論文を読んだり、エビデンスを調べたり、早い段階から適切な専門家にお話を聞いた記事、例えば若い世代向けの内容や基礎知識をまとめた記事は10万や40万を超えるアクセスがありました。ただ、コロナに限らず科学技術の記事もそうですが、わかりやすい言葉で説明しすぎて読者に「自分で考えなくてもいいんだ」と思われてしまうのは、本末転倒だと感じます。わかりやすい言葉を使いつつ、さらにその先に関心を持ってもらったり、考えもしなかったことに気づいてもらい、ひいてはその人の人生や社会がいい方向に向かうのをサポートするのが自分の役目。科学業界の発展のためにもサポートできることはまだまだいっぱいあると思います。

新型コロナウイルスの基礎知識。致死率は? 症状は? 子どもが感染したら?【2月21日更新】https://www.businessinsider.jp/post-207105

 

理想のサイエンスコミュニケーターをお菓子にたとえると?
~おいしいサイエンスコミュニケーションのヒント~

足りないから欲しくなる、前向きな不要論のススメ

もし三度の食事で満足できていたら、人はお菓子を食べたいと思わないですよね。科学技術コミュニケーターも、皆さんの日常会話の中に他の話題と同じように科学技術の話が溶けこむようになれば、その存在はいらなくなる。将来的にはそうなってほしいです。

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