自分の中を通過して生まれた 感動や発見をのせて描く

2022年4月13日

株式会社スペースタイム
ディレクター・サイエンスイラストレーター
楢木 佑佳さん

北海道のサイエンスコミュニケーションを牽引する民間企業スペースタイム。創業者の中村景子さんに見込まれて社員第1号に。サイエンスイラストレーターとしての腕を磨き、名だたる学術雑誌にカバーアートが採用された。出産や転居などライフスタイルが変化するたびに社内の制度もアップデートされ、理想の働き方を体現する。

 

デザイン実習の成果物が仕事依頼の呼び水に

大学院で師事していた先生が北大CoSTEPの立ち上げメンバーで、以前から私たち学生も専門研究をわかりやすく説明することの重要性を意識していました。

博士課程2年のときに新しく「デザイン実習」が始まると聞いて、CoSTEP3期生になりました。ここでデザインの基本を教わった1年間があるから、今の私があるようなもの。実習で作ったサイエンスカフェのポスターをきっかけにイラストやデザインの依頼が舞い込み、「こっちの世界に進みたい。でもどうやってこの仕事で食べていけば…」と考えていたときにCoSTEPの先輩であり、スペースタイムの法人化を進めていた当社代表の中村に「うちに来ない?」と声をかけてもらいました。

北大の人文学カフェのフライヤーも多数制作。事前に研究者に取材し、見る人の関心をかき立てるビジュアルに仕上げていく。
ニーズが増えてきた論文作図で心をつかむ

ウェブサイトや動画、イベント企画などさまざまなご提案をする中で、近年は論文作図のご依頼が増えています。制作にあたり大切にしていることはご依頼いただいた先生方の研究内容を理解したうえで、単なる情報伝達ではなく、そこに私というフィルターをかけることで生まれた解釈や感動、発見をのせたものを提案すること。

ある仕事では、脳のニューロンの伝達を「樹々の間から星空を見るよう」と表現する先生の感動を受け止め、そこから「日本の技術を使った顕微鏡を使っているので線香花火で表現しては?」とさらに遠くに連れていく。そのフィルターこそがコミュニケーションであり、先生方にも喜ばれて、また次もご依頼いただける信頼につながると感じています。

学術雑誌Neuron2021年6月2日号の表紙を飾った理研CBSの村山正宜チームリーダーの論文カバーイラスト。(https://doi.org/10.1016/j.neuron.2021.03.032

 

育児、転居のたびに会社がバックアップ

札幌本社にいた育児中も、2020年春につくば市に転居してからもこうして仕事を続けてこれたのは、ありがたいことにその都度、中村と一緒により現実に即した柔軟な働き方を模索してきたから。今は私の他にも札幌以外の場所にスタッフが増え、自分たちがその場でできることに取り組んでいます。

科学史の本を制作したこともあり、科学技術を築いてきた先人たちの営みをこれからも継続する活動に貢献したいという思いが、一層強くなりました。サイエンスコミュニケーター志望者にぜひ身につけてほしい力は、ライティングです。先ほどの“自分フィルター”を通し、それを人と共有するときも言語化が出発点。言葉にする力を磨いていきましょう。

杉山滋郎監修・スペースタイム著『科学史ひらめき図鑑』(ナツメ社)。2019年2月の発売直後にはAmazonの科学史・科学書部門で1位を記録した。

 

理想のサイエンスコミュニケーターをお菓子にたとえると?
~おいしいサイエンスコミュニケーションのヒント~

手間かけて美味しさ倍増、子どもも大好きな干し芋

つくば市に来てから干し芋がめちゃくちゃ美味しいことを知りました。蒸して干す一手間をかけたことでこんなにも美味しくなるところが、自分の仕事と重なります。子どもにも安心して食べさせていますし、皆さんにも干し芋を食べて元気になってもらいたい!