株式会社MIERUNE 取締役
古川 泰人さん
2016年、オープンソースコミュニティの仲間とともに GIS(地理情報システム)ソリューション企業MIERUNEを立ち上げ、オープンソースソフトウェアを活用して、位置と情報に関わる様々な分野のサポートを手がけている。北海道を中心に国内に おけるシビックテック の先駆者として活躍するが、土台にあるのはフィールドワークで培った知識とスキル。科学とITを駆使して、社会をより良いほうへと動かしていく。
グスコーブドリとドリトル先生を目指して沖縄へ
ぼくの原点は、宮沢賢治の童話『グスコーブドリの伝記』です。あらすじは、冷害による飢饉で家族を失った主人公が、成長して火山技師となり、火山を人工的に噴火させて冷害からまちを救うというもの。小学生のときにはじめて読んで、グスコーブドリが知識を深め、実践を重ね、それを社会に役立てていく姿に心を打たれました。また、生き物やアウトドアが好きで、『ドリトル先生』シリーズへの憧れから博物学者になりたいと思うようになります。
そこで、フィールドワークに定評のある琉球大学に進学しました。生まれ育った関西とは異なる文化のなかで、念願の野外調査のほか、科学史や生命倫理、沖縄特有の社会問題など 幅広く学び、学外の人たちとも積極的に交流して、「科学と社会」を強く意識するようになりました。
アカデミアと社会の関係についてより学びを深めるため北大CoSTEPへ
北海道立研究機関でのインターンを経て、北海道大学 大学院に進学してからは、ヒグマやエゾシカ、アライグマとヒトといった「野生生物と社会の軋轢」に関する問題についても学びつづけました 。修士課程修了後は、環境調査会社に就職し、科学的見地と社会要請とのバランスを取る立場で、アカデミアとはまた違った刺激を得ていました。
そんなとき、愛読していたブログ「ガ島通信」で、藤代裕之さん(ジャーナリスト、現在は法政大学准教授)が北大CoSTEP講師に着任したと知り、受講を決めました。これまでのベース知識や経験に、新しい観点の学びを注入することで、さらに自分をアップデートできるのではないかと思ったのです。 個性的な講師陣のもと、文章スキル、媒体ごとに異なる情報発信、データジャーナリズム、トランスサイエンスにおける合意形成の手段などを学びました。あの一年間の出会いと体験はとても刺激的で、ぼくの骨格のひとつと なっています。
「楽しい武器」で社会をより良いほうへ
昔、社会革命には武器や戦車が必要だったが、現代は、オープンソースソフトウェアや オープンデータ、オープンマインドという新しい武器がある——。これは、敬愛するオープンソースソフトウェア開発者 の言葉ですが、なるほどそのとおりかもしれません。
ぼくは仲間と一緒にこれら「オープン」なツールを 活用して、地域や顧客のサポートに 取り組んでいます。自然科学からITへの方向転換に見えますが、その自覚はありません。というのは、オープンソースのエコシステムは 科学研究活動のエコシステム に似ていることもあり、ぼくにとってはいまの仕事もフィールドワークの延長です。自分の進化系統樹を描いてみたら、起源に『グスコーブドリの伝記』、共通祖先に「科学と社会」、その先に北大CoSTEPがあって、そこから科学を社会へと還元する活動がどんどん広がっていくのかなと。これからも、いろいろな「楽しい武器」で、社会をより良いほうへ動かしていきたいです。
理想のサイエンスコミュニケーターをお菓子にたとえると?
~おいしいサイエンスコミュニケーションのヒント~
お菓子を引き立てるお菓子「メレンゲ」
メレンゲは焼き菓子としておいしいのに、ケーキやマカロンの材料にもなる。自己主張しすぎず、ほかの材料に混じってお菓子を引き立てるという役目は重要だと思っています。ぼくは前を走るより伴走する フェーズに入ったので、メレンゲのように周りを幸せにする触媒になりたいです。