社会と共創するためのヒント

2022年9月30日

明治大学 公共政策大学院 ガバナンス研究科
教授
源 由理子さん

社会に本当に必要とされているサイエンスコミュニケーションとは何だろう。源さんは、多様なアクターが活動をデザインする参加型評価を研究する第一人者である。サイエンスコミュニケーションを考える上で必要な社会との共創について伺った。

 

 

ウェルビーイングから考える公共サービス

行政学の学説の一つに、「ガバメントからガバナンスへ」という流れがあります。ガバナンスというとコーポレートガバナンスにあるように企業統治のようなイメージがあるかもしれませんが、多様なアクターでコミュニティを統治(協治)してくという考え方です。

そして今、国際開発や福祉の分野では、単に福祉サービスを提供するだけでなく、社会を構成している人々のウェルビーイングを社会システムの観点から考えていく「社会開発」という観点が注目されています。ウェルビーイングな状態とは、人によって違います。そのため、一つの目標を立てるのではなく、必要な福祉や社会参加の機会を、それぞれの人が自分の必要に応じて選択できる公平性が目指されています。

新たな公共の担い手としてのNPO、NGOが制度化されたのは阪神淡路大震災がきっかけだった

 

建設的に議論し合う文化をはぐくむ

ガバナンスでは、参加するすべての人が主体的に参加することが求められています。そのような参加の形態によって、建設的に議論し合う仕組みが生まれるのではないかと思っています。

私は、日本に必要なのは、建設的に批判的に議論できる評価文化をはぐくむことと考えています。その際に重要なのが評価的思考(evaluative thinking)です。評価的思考では、自分たちの活動を常に言語化して、可視化していく必要があります。そして本当に今の活動が目的に適っているのかを常に問いかけ、データから評価し、さらに深く思考することが求められるのです。評価的思考では、失敗も一つのデータとして活用され、前に進む手掛かりとなるんです。

 

実践を伴う学び

実は、私が所属する明治大学の公共政策大学院では、ここで紹介した実践活動を含んだ公共政策を学ぶことができます。うちの大学院では、社会人でも受講できるように、夜間や土日に授業を開講していて、科目によってはオンライン併用による受講も可能です。最近では、企業にも、利益や効率を追求するだけでなく、本当に価値あるサービスを社会に提供することが求められている時代です。そのため、NPOの職員や公務員に交じって、民間企業に勤めている人も参加されていますよ。

社会人は学びの結果を実践にすぐ結び付けることができるという利点がありますね。サイエンスコミュニケーションという活動も、社会の側に立って考えると、また景色が違って見えるかもしれません。

先日、北海道大学CoSTEPでも講義が行われた